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「台北散歩日和」:土地公

「台北散歩日和」:土地公

連載:「台北散歩日和」第 七 話

台湾の人々は信心深い。

春節(旧正月)、清明節、端午節、中秋節など重要な節季には、台湾の寺廟や自宅では神仏や祖先に香を焚き、お供え物をして参拝することを欠かさない。この参拝のことを台湾語で「拝拝(バイバイ)」という。寺廟で祈願する参拝者の真摯な姿には、ぼくはいつも感動さえ覚える。

その一方、台湾の寺廟には、日本人の眼から見て不思議なことも多い。その一つが「神仏混淆」。日本では神道と仏教が混じり合ったという現象を指すが、台湾では道教と仏教が混じり合った形で存在する。たとえば、道教の海上安全の神様である媽祖廟に観音菩薩が祀られていたり、場合によっては儒教の祖、孔子まで祀られていたりもする。反対に、仏教の寺院に道教の縁結びの神様の月下老人が祀られていたりもする。この宗教の枠をもゆるやかに越えていく大らかさ、受容度の高さは、台湾の文化を語る上での一つの鍵とも言えるものかもしれない。

また、民間習俗化した道教において、歴史上、伝説上の偉人を押し並べて神様に昇格させている点にも注目したい。かつて本コラム第三話で紹介した学問の神様の文昌帝君然り、『三国志』の武将から財神「関公」として崇められている関羽然りである。

台湾で神様になった日本人もいる。いずれも日本統治時代に台湾に寄り添った先達だ。嘉義の副瀬村の派出所勤務の傍ら、村民のために減税の嘆願に奔走したが果たせず、最後は自ら命を絶った森川清治郎。この警察官は「義愛公」もしくは「日本王爺」として、今も地元の人々から慕われ続けている。このほか、烏山頭ダムの建設を指揮し、嘉南大圳を穀倉地帯に変えた八田与一技師、零戦に乗機中に米軍の攻撃で被弾しながらも村人を救うため、自らの命と引き換えに集落を避けて搭乗機を墜落させ、「飛虎将軍」として祀られている杉浦茂峰兵曹長などの名が挙げられる。民族の出自を問わず、時代を超えて功のあった、いや「功」というよりこの土地や民に「愛」のあった人物を語り継ぎ、崇め続ける姿勢も、台湾独特のものであるように思う

ところで、道教の神様の世界は、天上の最高神である玉皇大帝を筆頭に、明確なヒエラルキーが形成されているのも特徴の一つだ。その階層の底辺に位置する神様がいる。台湾語で「土地公(トーデコン)」と呼ばれる福徳正神だ。土地公は「神明界の派出所」とも言われていて、その土地に暮らす人々のよろず相談に応じてくれる神様で、人々の暮らしの最も近いところに存在している。その地域の守り神であると同時に、財神の役割も兼務している。

「土地公」を「拝拝」する時に使う「金紙」のパケージです。(写真:作者提供)

台湾の街を歩いていると、時折、商店の店先に拡げられたテーブルの上に果物やお菓子やお酒などのお供えものが置かれ、その脇で紙銭を焚いている光景を目にすることがあるだろう。これは旧暦の1日と15日、もしくは旧暦の2日と16日に、自分の店の商売繁盛をその場所を管轄する土地公をはじめ、関係諸神に祈願しているところなのだ。この商売繁盛祈願の「拝拝」のことを台湾語で「作牙(ツォゲェ)」と呼ぶ。そして、旧暦12月の最後の做牙を「尾牙(ボエゲェ)」と言い、この時期に多くの職場で忘年会が開かれることから、今では「尾牙」は忘年会を意味する言葉にもなっている。

台湾では、映画やテレビドラマのクランクインや舞台の初日にも、「開工大吉」と称する「拝拝」が行なわれる。かつてぼくが出演した舞台の初日のリハーサルの際に、台詞の字幕を投影するプロジェクターが突然言うことを聞かなくなった。この「拝拝」を怠っていたことに気付いたプロデューサーが、コンビニにお供え物の菓子を買いに走り、急ぎ「拝拝」を行なった。果たせるかな、土地公にご機嫌を直していただけたこと、言うまでもない。

さて、今日は旧暦の5月16日だ。ぼくが“老店長”として、カウンターを守っている「北村家くるみ小料理屋」でも、月に2回の「拝拝」を行なう日だ。近所の「金紙店(ギムヅアディァム)」で紙銭を買い求め、三種の果物や菓子、ビールや日本酒といったお供え物をテーブルに並べる。

オーナーの北村豊晴監督が映画の撮影等で留守の時には、ぼくが土地公に対しての商売繁盛の祈願の言葉「祝禱疏文」を述べることとなる。毎回台湾華語で念じているのは、こんな内容だ。
「わたくしどもは恭しく香を焚き、果物、清酒、菓子、金銀財宝(紙銭のこと)をお供えいたします。玉皇大帝(天上の最高神)、三官大帝(天地水を司る神)、諸仏菩薩(諸々の仏と菩薩)、土地公の福徳正神(店のある土地の守り神)、城隍尊神(広域市街の守り神)、五路福神(福の神)、五路財神(財神)に、謹んで当店までご足労の上、お供え物、金銀財宝をご笑納いただきたく存じます。そして、異郷の地で店を商うわたしどもにどうぞご加護を。日々商売繁盛し、お客様がたくさんご来店くださいますように。また、わたくしどもが平安であり、願い事が叶いますように。」

さあ、「拝拝」が終われば、賄いご飯の時間だ。今日のメニューは何かな?


(↑↑↑は北村家の賄いご飯です!)

北村家くるみ小料理屋
住所:台北市大安區樂利路17號
電話:0929-200-518(午後2時以後)
LINE ID:kitamura_ke
営業時間:6:00 p.m.~00:00 a.m.
(ラストオーダー、11:00 p.m.)
定休日:火曜日、旧暦新年

(アイキャッチ写真:新北市中和烘爐地土地公石像、写真 Richard, enjoy my life!

寄稿者情報

馬場克樹“爸爸桑”
シンガーソングライター、俳優、フリーライター。北海道大学文学部卒。日本台湾交流協会台北事務所に駐在した後フリーとなり、台湾に移住。音楽創作に加え、映画、TVドラマ、CM、舞台で俳優としても幅広く活動。代表曲に台湾映画の主題歌として蔡健雅(タニア・チュア)に提供した「很靠近海(海のそばで)」がある。

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