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【追悼】看見台湾~齊柏林、台湾という森をみた人。

【追悼】看見台湾~齊柏林、台湾という森をみた人。

コラム:「スクリーンごし台湾通信」

6月10日、午後。
衝撃のニュースが台湾中を駆け巡った。2013年に社会現象を巻き起こしたドキュメンタリー映画『看見台湾』(日本公開タイトル:『天空からの招待状』)の監督である齊柏林氏が、『看見台湾』の続編を花蓮で撮影していたところヘリコプターが墜落、この世を去った。

わたしのフェイスブックのタイムラインは一斉にこのニュースで埋め尽くされた。誰もがいうべき言葉を失っていた。
こんな情報をシェアしている友人がいた。
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12:52花蓮縣消防局報:
地點:花蓮縣豐濱鄉大港口118號協進農場
時間:
11:56受理報案。
12:22到達現場。
出動人車:消防局出動6車11人,由小隊長徐照迪。
現場狀況及傷亡:凌空航空直升機(編號B-31118)墜落起火,機上3人已明顯死亡(2人機上、1人機外)未送醫。
凌天航空的OH-58型民用直升機
機上3人有,齊柏林、助手、正駕駛

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花蓮の大港口。映画『太陽の子』の舞台となった場所だ。どうやら本当のことらしいと、また呆然とした。つい一昨日ぐらいに、続編である『看見台湾2』の制作発表が行われ、予告編がでたばかりだった。知り合いでも、お目にかかった事があるわけでもなかったけれど、台湾映画界は大きなものを失ってしまったと、ただただ悔しくて涙がでた。

齊柏林監督は1964年うまれ。台湾の交通部で高速道路建設の空中写真を撮る公務員だった。あと2~3年で退職金がもらえるという年齢で退職し、『看見台湾』の制作にはいった。2009年の台風による大きな水害による台湾の国土破壊にショックを受けたことがきっかけとなった。「齊柏林」(チー・ボーリン)という名前にかけて自分のメールアドレスを「 Zeppelin」(レッド・ツェッペリン)にしていたそうだ。ロックン・ロールが大好きな熱い人だったのだ。

「台湾で過去、空撮のプロフェッショナルは一人もいませんでした。私に教えられる人はいません。非常に孤独でした。」
(『映画で知る台湾』野嶋剛・著/明石書店/2015齊柏林監督インタビューより)

元々は軍用に開発された特殊なカメラを自費で購入し、結果的に9000万台湾ドルを使ってようやく完成となったが、当初の配給会社の興行予想はたったの800万台湾ドルだったという。が、公開後に社会現象を巻き起こし、3億台湾ドル以上の興行成績を得た。

日本でもドキュメンタリー映画は商業的に非常に苦戦するジャンルだが、この『看見台湾』は、「ドキュメンタリーは客が入らない」というそれまでの常識を覆した作品であり、台湾におけるドキュメンタリー製作のポテンシャルの高さを実証した。

戒厳令がおわり、経済発展のなかでじぶんの資産をどう増やすか、ということに殆どの時間を費やしてきた台湾人が、中国との両岸関係をも含めて「台湾人」としてのアイデンティティについて考え始めたときに、そこに「映画」という手段があった。

2008年の魏徳聖監督の『海角七号』より盛り上がりはじめた台湾映画ブーム(「國片」ブーム)とはつまり「台湾人が映画を通して台湾に出会う」という経験でもあったが、この『看見台湾』は、「かけがえのない台湾という土地」という認識を本省人/外省人という壁を越えてもたらし(実際に、齊柏林監督は外省系家庭の出身である)、それはフィクションには持ちえない、すべて空撮という俯瞰映像だけが持ちうることの出来た、圧倒的な台湾の現実だった。

ちっぽけな人間、ちっぽけな台湾という島。

それがどんなに美しく、歴史をたずさえ、また危機に瀕しているかということを、この映画を通して台湾人ははじめて「認識」した。
「木を見て森を見ず」という言葉があるが、台湾社会の政治や経済の混乱で、既存メディアはまさに「木しかみない」という状態だった。そんな中で、齊監督は映画が木だけでなく「森を見ることができる」メディアであることに賭けたひとだったといえる。

また「看見台湾」は、企業の利益追求が国土を破壊していることを告発した。それまでも環境運動を行っている団体はあったが、この映画によって世論が政治を動かし、実際に「日月光」という半導体の企業が排水の垂れ流しによって環境を汚染していることに法的罰則がくだった。いわば「看見台湾」によって、台湾企業は利益に対して社会環境に責任を負うという自覚を促されたのである。

上述した野嶋剛氏の本のインタビューのなかで、齊監督は前作での困難について、台湾の最高峰である玉山(※日本時代は「ニイタカヤマノボレ」の暗号ともなった「新高山」)で原住民の子供たちが歌を歌っているシーンを撮る時に
「強風で機体が大きく揺られ、死を覚悟した瞬間もありました」と語っている。

ヘリコプターでの何百時間もの時間を費やした空撮、そのこと自体がまさに「死を賭けた」創作であったことを、今回の事故は図らずも証明してしまったのである。

『看見台灣』のフェースブックより。

たった二日ほど前に発表された「看見台湾2」の予告編。
台湾にとどまらず、中国やアメリカ、ニュージーランド、そして日本の福島の空撮の映像も挿入されている。
続編で齊監督がわたしたちにどんな「森」を見せようとしてくれていたのか。
齊柏林監督が命を懸けてわたしたちに残した「宿題」の重さを、考えていかなければならないだろう。

きょうの台北では、午後から急に天気が崩れ、大粒の雨が降った。
まるで、天も悲しんで涙をながしているみたいだった。

あまりにも早くこの世を去られた齊柏林監督、助手の陳冠齊さん、パイロットの張志光さんに、心より哀悼の意を表します。合掌。

 

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