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「台北散歩日和」:火金姑

「台北散歩日和」:火金姑

連載:「台北散歩日和」第 六 話

台北市内から見える山の一つに観音山がある。淡水河を挟んで台北の向かい側にあり、行政区分では新北市八里区五股区の境に位置する。ちょうど観音菩薩が横たわっているように見えるというその容姿からこの名を戴いている。最高峰の硬漢嶺は標高616メートル。

ぼくも何度か登ったことがあるが、中腹の観音山ツーリストセンターからは、片道小一時間のハイキングコースだ。去年の旧正月に登頂した時は、快晴だったこともあり、頂上からは直下の淡水の街並はもちろん、大屯火山系の陽明山の峰々や遠目には台北101までも一望できた。実に雄大なパノラマだ。

観音山には四季折々の風物詩がある。様々な鷹科の猛禽類の生息地、中継地としても知られ、バードウォッチングも盛んだ。3月から4月にかけては、甘酸っぱい香りとともにザボン(文旦)の白い花が満開となる。九州地方でもお馴染みのザボンは、台湾華語では「柚子(ヨウズ)」と呼ばれるが、日本のいわゆる柚子とは別物で、幼児の頭ほどの大きさにもなる。ザボンの実は旧暦の9月頃に収穫を迎え、台湾では月餅とともに中秋節の贈り物やお供え物となる。

また、5月から7月にかけては、「緑竹筍」と呼ばれる特産品のタケノコの季節を迎える。このタケノコは、アク抜きは不要。甘みがあって香りも瑞々しい。いったん茹でたものを冷ましてブツ切りのサラダにし、楊枝に刺しながら甘いマヨネーズを付けて食べるのが台湾流だ。

台湾に初めて来た頃は、ぼくはこの台湾マヨネーズが苦手だった。タケノコの上にかかっているこのマヨネーズを除けて、別途わさび醤油を所望して食べていたほどだ。しかし、いつのころからか、ぼくも台湾のタケノコには台湾マヨネーズが定番となった。この島で過ごした9年の歳月は、確実にぼくの味覚をも変えていたのだ。

さて、春のザボンの花と初夏のタケノコの季節の変わり目に登場するのが、台湾華語で「螢火蟲(インフオチョン)」、台湾語で「火金姑(フイキムコ)」と呼ばれるホタルだ。台湾全体では60種類以上ものホタルの棲息が確認されているそうだが、観音山で長年の間ボランティアの観光ガイドをしている李さんが、この山のホタルは水生のものと陸生のものと二種類いるのだと教えてくれた。水生のホタルは「黃緣螢」と呼ばれるキブチボタルで、幼虫は水中で巻貝を食べて育ち、やや小型である。一方の陸生のホタルは、台湾で最も多く見られる「黑翅晦螢」と呼ばれるやや大型のクロバネボタルである。幼虫は土の上でカタツムリを食べて成長する。

キブチボタルの幼虫は清らかな水にしか棲息できないため、しばしば環境保護の指標とされる。観音山でもこのホタルを守るため、ホタルが育つ水源に近い農家に農薬を散布しないよう、一軒ずつお願いして回っていると聞く。

ぼくは幼少期を静岡県の浜松で過ごしたのだが、近所の小川や用水路には、夏になるとホタルが飛び交っていた。しかし、日本で公害が社会問題となった1970年代になると、瞬く間にホタルは姿を消した。闇夜にホタルの舞う光景は、少年時代の思い出とともに、ぼくの記憶の引き出しの片隅にしまわれることとなった。再びあの幻想的な光を目にしたのは、それから数十年の時を経た、ここ台湾でのことだった。記憶と現実の風景が一瞬にして重なったあの日の感動は、今もはっきりと覚えている。

ところで、ホタルは成虫になると、わずか一、二週間ほどしか生きられない。その間、雄のホタルだけが黄緑色の灯りを点滅させ、パートナーを探し求める。ホタルにとっては次の世代へと命を引き継ぐための必死の営みなのだ。とは言え、その光は幻想的な魅力に満ちている。ふと『源氏物語』の「螢の巻」で、光源氏が闇の中で玉鬘(たまかずら)という姫君の美貌を見せるため、ホタルを放った場面を思い出した。ここではホタルは姫君を引き立てる脇役だが、何とも美しい光景ではなかろうか。

昨年、台湾のシンガーソングライター阿家(A-Ga)が、観音山の自然や文化を主題としたミニアルバム「伊的面容(あの人の顔)」を発表した。彼はデュオバンド「八得力(バッテリー)」のぼくの相棒でもあるのだが、今回のCDには「火金姑,漫漫仔飛(ホタル、ゆるやかに飛ぶ)」という、観音山のホタルのことを歌った曲も収録されている。そこに登場するホタルも、少年時代と大人になった自分の間の時空を自由に飛び交う存在として描かれている。ホタルにはファンタジーが似合う。

阿家は観音山の中腹にあるレストラン「碧瑤山莊」で、10年間ライブステージを続けている「駐唱歌手」でもある。台湾では「流し」の系譜を汲み、パブやレストランで歌う歌い手をこう呼んでいる。このレストランの看板料理は、放し飼いの地鶏を茹でた「白斬放山雞」、蓮の葉の上の豆腐にむきエビや椎茸やエンドウ豆などを乗せて蒸した「荷葉燴豆腐」である。だが、この季節は甘くてシャキシャキしたタケノコのサラダ「綠竹筍沙拉」は、やっぱり外せない。

新鮮な山の空気とともに、半戸外の開放的空間でいただく料理は格別だ。もし土曜の夜であれば、阿家の楽しいステージも料理に花を添えてくれるはずだ。そして、運が良ければ、観音山のホタルたちがレストランの賓客を温かく出迎えてくれることだろう。

<参考URL>
阿家「火金姑,漫漫仔飛」
(1)INDIEVOX: www.indievox.com/song/116009(歌詞が見られます)
(2)KKBOX: https://www.kkbox.com/tw/tc/song/mmF00Ssa7QHg30ufg30uf0XL-index.html (30秒だけ視聴できます)

(アイキャッチ写真:黄小明@flickr cc写真)

寄稿者情報

馬場克樹“爸爸桑”
シンガーソングライター、俳優、フリーライター。北海道大学文学部卒。日本台湾交流協会台北事務所に駐在した後フリーとなり、台湾に移住。音楽創作に加え、映画、TVドラマ、CM、舞台で俳優としても幅広く活動。代表曲に台湾映画の主題歌として蔡健雅(タニア・チュア)に提供した「很靠近海(海のそばで)」がある。

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  1. 「火金姑」は、ホタルの台湾河洛語での言い方です!台湾語は台湾客家語と、台湾原住民語と、台湾河洛語など十数種類もあるです。

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