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「台北散歩日和」番外編:五月雪

連載「台北散歩日和」番外編

台湾では5月に雪が降る。

北部から中部の山間部では、台湾華語で「油桐花(ヨウトンホア)」と呼ばれるアブラギリの白い花が一斉に咲き、そして散る。アブラギリが新緑の木々を覆い尽くす様は、まるで山全体がうっすらと雪化粧をしたかのようだ。そして、アブラギリは花びらが繋がったままの形状で静かに回転しながら落ち、地面を真っ白に埋め尽くすまで降り積もる。咲いて良し、散って良しの花だ。日本語にも「桜吹雪」という言葉があるが、このアブラギリも「五月雪」という別称を持っている。台湾の5月の雪は温かく美しい。

もともとアブラギリは中国の長江沿岸が原産の植物だ。日本統治時代に台湾に持ち込まれ、その名の通り油分を多く含むことから主に機械油の原料として山間部に植えられた。これとは別に、日本では高級家具の原材料として桐が重宝されたため、同じ桐の仲間で成長が早いアブラギリを植えたのだと言う話もある。しかし、もともと油分が多い上、柔らかい材質のこの樹木は、もとより家具材には不向きだった。いずれにせよ、日本人によって植えられたというアブラギリは、戦後台湾の山の中にひっそりと放置されることとなった。

そのアブラギリが、にわかに注目を浴び始めるようになったのは、ここ十数年ぐらいのことだ。台湾の北部から中部の比較的海抜の低い山間部に客家人(はっかじん)が多く暮らしていることから、アブラギリは台湾客家を象徴する花と位置付けられるようになり、それが地域おこしのイベントと結びついた。そして、今では苗栗、新竹、桃園、新北の客家人の居住する地域では、毎年3月から5月にかけて「客家桐花祭」と呼ばれるアブラギリのフラワーフェスティバルが開催されるようになっている。

ところで、客家人というエスニックグループをごく簡単に説明しておこう。台湾には客家人は 12% ほどいると言われている。その祖先は2千年以上前には中原と呼ばれる中国の黄河の中下流域、今の河南省辺りに住んでいた漢人である。その後、度重なる戦乱を逃れて南下し、いったん現在の福建省や広東省北部の山地に定住したのち、閩南(ビンナン)系の漢人に続いて台湾に移り住んだのが、現在の台湾の客家人のルーツである。

独自の言語である客家語(はっかご)を操り、伝統文化を守り続けている客家人は質素で勤勉なイメージがあり、多くの政治家・軍人・教育家を輩出している。辛亥革命を起こし、中華民国の建国の父と呼ばれる孫文、シンガポールの建国の父で長らく首相を務めたリー・クアンユー、中国の最高指導者として改革・解放政策を推し進めた鄧小平、台湾で初の民選の総統となった李登輝、いずれも客家系であることは広く知られている。

さて、ぼくが最初にアブラギリと出会ったのは、もう9年前になる。当時ぼくのことを「乾叔叔(ガンシュウシュウ、『義理の叔父』の意)」と慕ってくれていた客家出身の若い友人が、彼女の故郷である苗栗県の三義郷に招いてくれたことがあった。そこで、ぼくは山一面に咲き誇り、また散って山道を真っ白に埋め尽くしていたアブラギリを初めて見たのだった。その幻想的な美しさにぼくはすっかり心を奪われた。この世で一番美しい花ではないかとさえ思った。その日、ぼくはアカシアの仲間で黄色くて小さな花をつける相思樹や、闇夜にほのかな光を点滅させ飛び交うホタルも目にした。台北に戻るや否や、ぼくはすぐさまこの曲を書き上げた。

「五月の雪」

風に舞い散る桐の花
そっと積もるは五月の雪
大切な人待ち侘びる
君の心に寄り添うよ

雨に打たれる思い花
俯きがちに震えている
届かぬ想い秘めたまま
君の涙の訳を知る

闇に瞬く蛍火は
遠い記憶の子守唄
儚い夢を乗せながら
君の明日を照らしてる

風に舞い散る桐の花
そっと積もるは五月の雪
風に舞い散る桐の花
そっと積もるは五月の雪・・・

作詞・作曲:馬場克樹
(©2008 Masaki Baba)

五月の雪(Instrumental):音源

台湾で一番好きな花は何かと問われれば、それ以来ぼくは、迷わずアブラギリと答えている。そして、毎年4月の終わりから5月の始めにアブラギリの開花のピークを迎えるこの季節を何よりも楽しみにしている。時間が許せば苗栗県三義郷を再訪し、忙しい時でも基隆市や新北市の土城、深坑など近場でアブラギリと出会える場所を尋ね歩いている。さあ、今年もまた三義郷であの「五月の雪」を存分に愛でてみよう。ついでに、もう少し山を奥に入ったところの苗栗の名湯、泰安温泉にもゆっくりと浸かって来ようかな。

そんな妄想を膨らませつつも、まずは台北の客家料理店で出陣前の腹ごしらえだ。台北でお気に入りの客家料理屋はいくつもあるのだが、今日は久し振りに「五月雪客家私房珍釀」に行きたい気分だ。

敦化南路を南に下り、信義路と交わる交差点の二つ手前の路地を折れたところにあるこの隠れ家的な店は、伝統的な客家料理をベースにしつつも、洗練された創作料理も魅力の新客家料理のレストランだ。シェフの斬新な発想の料理の数々には毎回感嘆しつつも、今回はベタに「客家小炒」を注文しよう。スルメと豚肉、豆干(干し豆腐)、台湾セロリ、長ネギ等を醤油で炒めたこの一品は、客家料理店ならどこにもあるお決まりの一品で、実にご飯が進む。新竹や苗栗で食べたしょっぱい客家小炒もなかなかだが、ここのは油少なめ塩加減控えめの上品な味わいだ。お昼ならビジネスランチセットもあって、味、ボリューム、値段のどれも納得。やっぱりもう一膳ご飯のおかわり、行っちゃおうかな。

左は「客家小炒」、右はビジネスランチセット。

住所:台北市敦化南路一段329巷16號1樓(MRT:R04 信義安和駅1番出口)
電話:(02)2700-6248
LINE ID: 27006248

寄稿者情報

馬場克樹“爸爸桑”
シンガーソングライター、俳優、フリーライター。北海道大学文学部卒。日本台湾交流協会台北事務所に駐在した後フリーとなり、台湾に移住。音楽創作に加え、映画、TVドラマ、CM、舞台で俳優としても幅広く活動。代表曲に台湾映画の主題歌として蔡健雅(タニア・チュア)に提供した「很靠近海(海のそばで)」がある。

コメント一覧

  • Comments ( 2 )
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    • コメントどうもありがとうございます!
      五月の木棉ですね。それももう一つの初夏の風物詩〜

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