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「台北散歩日和」番外編:一ミリのしあわせ

「台北散歩日和」番外編:一ミリのしあわせ

「一ミリのしあわせ」

作詞・作曲:馬場克樹

朝のまばゆい陽射しに誘われて
この部屋中の窓を開け放てば
昨日までとらわれていたあの悲しみも
夏の風がそっとさらってゆくよ

この空の向こうにいる大切な君から
今日も君らしく一日が過ごせたと
夜更けのメールがふっと届いたなら
キャンドルにほのかな灯をともそう

何気ない一日の始まりや
何気ない一日の終わりが
ぼくに運んでくれるよ
一ミリのしあわせ

地下鉄のスタンドでいつもの豆漿(ドウジアン)
ぼくが頼めばあの人は微笑み返し
Have a good day! ただそのひと言が聞きたくて
足早に階段を駆け上がるよ

ありふれた街角の風景や
ありふれた毎日の暮らしが
ぼくに運んでくれるよ
一ミリのしあわせ

何気ない一日の始まりや
何気ない一日の終わりが
ぼくに運んでくれるよ
一ミリのしあわせ 一ミリのしあわせ

心でそっとつぶやく
ありがとう 笑顔を取り戻せたよ

「一ミリのしあわせ」音源
(©Masaki Baba all rights reserved)

ぼくがこの歌を作ったのは、もう9年ほど前になる。

その頃、ぼくは毎朝最寄り駅の「中山國中」駅から台北のMRT(交通輸送システム)に乗り、職場に通っていた。そして、朝の通勤時間にだけ現れる、いつも決まった駅前の屋台で、無糖の豆乳とベジタリアン・サンドイッチを買い求め、職場で朝食を摂るのが日課だった。台湾ではこうした屋台は「路邊攤(ルービエンタン)」と呼ばれている。非合法ではある場合も多いのだが、それでも台湾の伝統的な風物詩の一つであることに間違いはない。

その屋台のおかみさんは、毎日ぼくがお代を支払う際に、決まってこう声を掛けてくれたのだった。

「感恩!祝福你有美好的一天!(ありがとうございます!今日も素敵な一日となりますように!)」

たとえその前日にちょっと悲しいことや嫌なことがあったり、休み明けで出勤するのが億劫なブルーマンデーであったりしても、このおかみさんのひと言で「よし、今日も一日がんばろう!」と俄然やる気が生じたものだ。そして、ぼくも自然とおかみさんにこう返すこととなる。

「謝謝妳!妳也是!(ありがとうございます!あなたもね!)」

毎朝の決められた儀式とも言うべきおかみさんとぼくとのエール交換が終わると、それまでの悶々としていた自分がうそのように、晴れやかな気持ちで電車に乗り込むことができたのだ。それ以来、ぼくはこの魔法の言葉「祝福你有美好的一天」を大事にし続けている。と同時に、こうした日常生活の中に潜んでいるちょっとしたしあわせ感を「一ミリのしあわせ」と名付け、このエピソードをもとに、一つの曲の歌が生まれることとなった。それが冒頭で歌詞を掲げた「一ミリのしあわせ」だ。

ぼくの友人が以前このように言っていたことがある。

「不幸は『状況』なので時間の経過とともに自ずと過ぎ去っていくものだが、幸せは『能力』なので自分でそれを磨けばいくらでも発見できるものだ。」

この言葉は、ぼくの心の奥深いところで共鳴し続けている。確かに自分のこれまでの道のりを振り返っただけでも、絶望的と思える状況に陥ったことも何度かあった。しかし、数年の時を経て振り返れば、たいていはちょっとほろ苦い思い出話か、時には笑い話にさえなっている。さらに言えば、その時の最悪な事態があったからこそ、そこから這い上がって今ここで笑っていられる自分がいることにも気付く。人生に無駄な経験などひとつもないということをつくづく実感できるのだ。

また、自分の日常を見渡せば、一ミリのしあわせは至る所に落ちている。近しい人が今日もそばにいてくれたり、初めて入った店で美味しい料理と出会ったり、ふと見上げた空がとても青かったり。そんなことに感動し、共鳴できる自分を発見することできれば、すべての事象は一ミリのしあわせとなって自分の眼の前に現れてくれるだろう。

そして、この一ミリのしあわせは、感謝の気持ちと連動していることも忘れてはならない。屋台のおばさんとぼくとのやりとりも、結局はお互いの感謝の気持ちを伝え合う行為にほかならない。当たり前のようにいつも話かけてくれる人や見慣れてしまった景色の中に、忘れてかけていた大事なものが往々にして隠れていることがある。それらを愛おしく思い、慈しむ心が感謝に通じるのではないかとぼくは思う。

ぼくが台北で暮らすようになって8年が過ぎた。辛い思い出も苦い経験も、すべて今の自分につながっている。そう思うと、すべてのことを受入れられる自分がいる。今もあの屋台は毎朝出ているのだろうか、あのおかみさんは元気でやっているだろうか。あの場所に行ってみようかという衝動に駆られながらも、一方であの頃の自分を支えてくれた大事な風景として、記憶の片隅に焼き付けておく方が良いのかもしれないと思う自分もいる。自分で粉から調合して焼いたパンケーキとカフェオレの朝食を摂りながら、今日もぼくは一ミリのしあわせを感じている。

(アイキャッチ写真 by halfrain @Flickr, cc)

寄稿者情報

馬場克樹“爸爸桑”
シンガーソングライター、俳優、フリーライター。北海道大学文学部卒。日本台湾交流協会台北事務所に駐在した後フリーとなり、台湾に移住。音楽創作に加え、映画、TVドラマ、CM、舞台で俳優としても幅広く活動。代表曲に台湾映画の主題歌として蔡健雅(タニア・チュア)に提供した「很靠近海(海のそばで)」がある。

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