Taisuki Café

台湾が大好き♡

カフェにいる理由。

カフェにいる理由。

連載:「猫と珈琲、時々おじさん。〜台湾小確幸」

台北には、表通りにも巷子やアパートの二階にも、いたるところにカフェがあって、どの店にも人がいます。

朝も昼も夕方も、カフェでコーヒーを飲んだり話し込んだり、パソコンをいじったりテキストを開いたり。一体どういう人たちなんだろう。会社いかなくていいのかな、学校はお休みなのかな。どうしてカフェにいるんだろう。いつも不思議に思っていました。

台北で会社勤めだった頃、私がカフェに行くのはもっぱら昼休みと、仕事帰り。勤め先の近くにあるカフェでかかる音楽が好きで、テイクアウトのコーヒーを待つ間はいつもスピーカーの近くに座って、耳を傾けていました。

退職した日は、会社と家の間にあるカフェに行きました。ここにも時々、仕事帰りに寄っていた。コーヒーの紙コップを持って家まで歩きながら、熱を持ってぐるぐる回る頭を醒ます。次に行く旅先のこと、好きな音楽のことを考えて気持ちを立て直す。顔見知りになったバリスタとちょっとおしゃべりして、淹れてもらったコーヒーとともに歩く時間が、私には必要でした。だから会社員としてのラストデイの一杯も、ずっと支えてくれたカフェにしたかったのです。

一方で、カフェで勉強や仕事をする人のことは「素敵なボクやワタシを演じていやがる。本気の作業なら家に帰ってやりたまえ」と、斜めに見ていました。私にとって、カフェの中は完全にぼーっとするか、おしゃべりをする場所。人の気配や話し声、音楽が流れている中で作業に集中できるはずがないと、決めてかかっていたのです。

ある日、自宅で試験勉強をしているうちに、息抜きが必要だと感じました。自分でコーヒーを淹れることは出来るけれど、その時は猛烈に、誰かが淹れてくれるコーヒーが飲みたかった。ついでにカッコつけてみるかと、テキストを持って民生東路のカフェへ出かけました。

これがなかなか良かった。コーヒーを一杯飲む間に、ここまでと決めた範囲を片付けることが出来ました。家にいると猫と遊んだり、ついニュースをチェックしてネットサーフィンに流れてしまったりと、集中が途切れ、だらけてしまう。人目の有る外に出るのも、悪くないのだと知りました。

それから時々、テキストを持っていくつかのカフェを渡り歩きましたが、勉強のために落ち着けるのは、最初に行った民生東路のカフェでした。近所から来たと思しき人、ピカピカのスポーツカーで乗り付ける人も入り混じり、10代や女子の賑やかなグループを寄せ付けない気配のあるお店。

そのカフェには、私以外にも、ノートを開いている常連の男性がいました。いつもひとりで、イヤフォンを耳にさし、ノートに何かを書いている。ちょっと髪が長くて、でもフェミニンでもない、モッズコートが椅子の背にかけてあるけど、ロンドンパンクほど尖ってもいない。学生なのか、仕事をしている人なのかも見えてこない、不思議な感じの人。

印象に残った彼は、週に1、2度そのカフェに行けば、ほぼ必ず先に来ていました。何をしている人なんだろう。ノートに何かを書いているのは、お勉強なのかな。

ある日そのカフェで、勉強に身が入らずテキストを閉じてぼーっとしていると、斜め前のテーブルでいつものようにノートを開いている彼の前に、女性がやって来て座りました。
(おっ、年上の女。今日はデートかい。)
なんとなく気になっていると、ふたりが日本語を話し始めたのでびっくり。でもあきらかに、台湾人の話す日本語のよう。途中で中国語になり、また日本語になる。どうやら女性は日本語の先生のようです。ちょっと上からものを言う、高圧的な気配がする。教えているというより、お説教をしている雰囲気でした。

彼があんなに毎日熱心にノートに書いているのは日本語だったのか。ずいぶん厳しい先生だな。ぼーっとしていた私も勉強しようと気を取り直してテキストを開いた時、

「でも僕は、日本語で小説を書きたいから。」

彼が静かに、とてもはっきりと、日本語で言うのが聴こえてきました。

思わず顔を上げて彼の方を見たけれど、それから先ふたりがどんな話をしていたのかは、わかりません。

それからも、何度かその店で彼を見かけたものの、どんなものを書いているのか、どうして日本語で小説を書こうと思ったのか、聞くチャンスはありませんでした。

私は試験が終わって、もう勉強は沢山だ、普通にコーヒーを飲んでだらだらするのだとあちこち渡り歩いたので、そのカフェにはしばらく行くことはありませんでした。でもある日ふと思い立ち、久しぶりにと出かけてみると、灯りが消えて、ガラスのドアに告知が貼られていました。その前日に、カフェは営業を終えてしまったと。

最近、その店があった場所に、新しいカフェが出来ました。真っ白な内装が特徴のようで、私には眩しいので、入ったことはありません。
ノートを開いていた彼も、ここでは小説を書かないような気がします。

彼はあのカフェで、日本語の、どんな物語を書いていたんだろう。
今はどこのカフェで書いているんだろう。
時々ノートから顔を上げて、ぼうっと遠くを見ていた彼が書いたものを、いつか見つけたいと思います。

民生東路にあった、Esca Illy coffee

寄稿者情報

mimi
ライター、コーディネーター、プランナー。
香港で19年生活後、2010年から台北在住。東京出身。
街歩きで出会う猫とカフェ、ブンデスリーガ(ドイツサッカー)観戦が好き。
一丁文化出版(香港)より、日本人からみた香港の人や習慣、広東語の面白さと魅力を書いた
「當抹茶Latte遇上鴛鴦」 を中国語(一部広東語)で上梓。
五月天や台湾、香港の俳優やミュージシャンのインタビュー多数。
個人サイト| 「台北 カフェと旅ノート」

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