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たいわんの食卓風景:迪化街漢方薬店のまかない

たいわんの食卓風景:迪化街漢方薬店のまかない

【連載タイトル】たいわんの食卓風景 -1-

台湾を歩くと、日本では見かけないご飯にあふれています。滷肉飯(ルーロウファン)、牛肉麵(ニュウロウミエン)、蚵仔煎(オアジェン)――お店でいただく、どこかよそゆきのメニューもいいけれど、ここでは普段着のご飯を旅します。


◆強い香り漂う店の奥で

「迪」という字の読み方をご存じの方はきっと、一度は台北を旅したことがあるのではないでしょうか。日本の常用漢字表には含まれないこの字は、音読みで「てき」、中国語では「dí」と読み、道、進む、導く、といった意味があるそう。

台北の西側に「迪化街」という通りがあります。台湾のガイドブックには決まってここが紹介されていて、「てきかがい」とルビが振られたものもあれば、中国語読みをカタカナ書きした「ディーホアジエ」とあるものも。何しろ台湾きっての問屋街で、ドライフルーツやホタテの干物、高級食材のからすみ、中華食材や調味料といった、日本ではなお目にかかれないものばかりが売られています。

その通りの中心に店を構えるのが今回お邪魔した「聯通漢芳」です。縁結びのご利益で知られる台北霞海城隍廟や、布の卸市場でもある永楽市場といった、日本人観光客も多い観光スポットは目と鼻の先。周囲には漢方を扱うお店がたくさんあります。

店の2代目、徐偉哲さん。

店頭から店内の壁にかけてずらーっと並んでいるのは、フルーツティーのパックです。反対側の壁には、高麗人参や干し貝柱などザ・漢方な品物が陳列されています。

「ああー、八角みたいな匂いがする!」と、入ってきたのは日本人のお客さんでした。確かに、店内には一種独特の香りが漂っています。

日本の薬局が、調剤室を持つ薬局とそうでないドラッグストアに分かれるように、漢方のお店もいろいろです。漢方医がいて脈を測って調剤する本格的なお店もあれば、一般用の医薬品を扱うお店もあります。聯通漢芳は後者。漢方医や薬剤師がいるわけではありません。つまり、台湾のドラッグストアといったところ。

開店は朝の9時から夜8時まで。この間を、オーナー夫妻も含めて10人の従業員で切り盛りしています。毎日、お昼になると、店舗と店舗裏の倉庫との間に、畳2枚分ほどのスペースにまかないが用意されます。簡単なテーブル、重ね置きできる丸椅子があり、スタッフが交代でお昼の休憩を取るそう。

この日のメニューは、従業員の王秋萍さんが作った香菇雞湯(しいたけと鶏肉のスープ)、肉骨茶冬粉(春雨入りバクテー)、炒高麗菜(キャベツ炒め)、番茄炒蛋(トマトの卵炒め)といった一般的な家庭料理のほか、「自助餐」と呼ばれる持ち帰り中心のお弁当屋さんで買ってきたお惣菜6品が並んでいました。1食に肉、魚、卵、海藻、葉物野菜にキノコ類がそろい、栄養バランスも意識されていることが伝わってきます。

向かいの階段脇にある、2口のガスコンロが置かれた空間こそ、王さんがまかないを生み出す調理場です。王さんはいわゆるワーキングママ。「材料は、店の近くにある伝統的な市場まで買いにいくか、通勤途中で買ってきます。一般的なキッチンと勝手が違うこともあって、ここではスープを作るとか、お湯を沸かす程度のごく簡単なことしかしません。まあ、そもそも何か特別な料理が作れるわけでもないんですけどね」

◆医食同源を身につけた2代目

店の2代目、徐偉哲さんは現在27歳。子どもの頃はもとより、学生時代にはアルバイトとして店を手伝い、1年前に結婚し、跡取りとして勤めはじめました。まかないを食べて育った一人です。

「基本的に好き嫌いはなくて、なんでも食べますね。自分では料理しませんが、家では妻が料理しますし、子どもの世話もしなくちゃいけないので、朝と夜は家で食べています」
そう言いながら、ステンレスのお椀を取り出すと、まずご飯をよそい、その上におかずをスッスッと載せていきます。日本は取り皿に分けますが、丼風にするのが台湾式。「食べ終わったら、また載せに行くんですよ」と偉哲さん。

この日の献立にあった番茄炒蛋は、日本でいうところの卵焼きのように、台湾では家庭料理の定番メニューです。卵焼きが甘かったり塩味だったり、中に具材を入れたりとバリエーション豊かなのと同じように、番茄炒蛋のアレンジも人によって違います。奥さんと王さんの番茄炒蛋は何か違います?と訊ねると、しばらくして「妻の番茄炒蛋は、最後に醤油だったかオイスターソースだったかを入れていますね」という答え。一方の王さんの味つけは、塩が少量、香りづけに青ネギが入っていて、卵とトマトの割合はトマトがかなり多めです。

「味に対する許容範囲は比較的広いほうだと思いますが、外食みたいに濃い味付けが苦手です。味付けは薄ければ薄いほどいいし、極端なことを言えば、味なんてつけずに茹でるだけでいいし、油もなくていいくらい。家で妻にも『入れないで』と言っちゃいますから。やっぱり薄味が健康的でいいなと思います」
偉哲さんの好きな味は、もうそこから医食同源が始まっているようです。

◆東南アジア発の薬膳スープ「バクテー」

この日の聯通漢芳のまかないには、2種類のスープがありました。その一つ「肉骨茶」は、東南アジアではバクテーと呼ばれる中華圏でも人気メニューです。名前に茶の字がありますが、骨つき肉を使った薬膳スープのことです。

聯通漢芳でも調合された肉骨茶の素は売られており、店の漢方食材を使ってオリジナルの調合を行っているそう。なんていうか、つまりは、カレーのルウです。

この日のバクテーにも、店オリジナルのティーバック(2袋入り100元)を使用しています。ちなみにこのティーバックは、台湾料理の名店として知られる「欣葉」にも納められている品そう。中身は、小茴香(ショウウイキョウ)、大茴香(ダイウイキョウ)、紅棗(ナツメ)、黨參(ヒカゲツルニンジン)、肉桂(シナモン)、枸杞(クコ)、黃芪(キバナオウギ)、當歸(トウキ)、黑棗(黒ナツメ)、玉竹(ギョクチク)、熟地(ジオウを蒸して乾燥させたもの)など計30種の漢方食材です。

「ティーバック包装にしているのは、便利だからです。奥の機械を使って自分たちで加工・調合した粉末が入っています。粉末ですから、比較的短時間で煮出すことができます。それに、何がどのくらい入っているか、材料の配合は企業秘密ですが、粉末であればわかりませんよね」

王さんは、調理の際、化学調味料を一切使用しません。この日の肉骨茶で使用した調味料は塩だけ。食べるとすぐに、体温があがり、じんわりと汗が出てきました。体を温める効果から、まかないとして出すのは秋から冬にかけて。夏にはまた熱くてもさっぱりする味のスープを用意します。

さて、迪化街には数多くの漢方食材店があって、どこがいいのか迷ってしまう、というのは観光客だけでなく地元台湾の人も同じよう。偉哲さんに店側の気持ちを聞いてみると、こんな答えが返ってきました。

「どの店にも必ず特色があります。うちならフルーツティーがありますが、別の店では置いていない、といったことです。漢方食材で言えば、正直な所、大きな差はありませんが、同じ商品でも店によって味が違います。お客様にも好みがあるわけですし。最終的には縁かなあと思いますよ」

取材後、これもご縁だからとバクテーのティーバックをいただいてしまいました。しっかり体を温めたい日に、作ってみるつもりです。

簡単!バクテーの作り方
(1) なべに「肉骨茶」を1パック入れる。
(2) 水3リットルを加えたら、皮をむいたニンニクを入れて煮る。
(3) ニンニクがほろほろしてきたところで、排骨(骨付の豚肉)を入れる。排骨なければ鶏肉でもよい。
(4) 肉に火が通ったら、塩で味を整えてスープは完成。
(5) 肉を食べた後で春雨を投入。春雨の替わりに麺も可。

寄稿者情報

田中美帆
1973年生まれ、台湾在住のフリーランス。上阪徹のブックライター塾3期生。
人生の後半戦を満喫しようと16年半勤めた出版社を退社し、2013年に台湾へ語学留学。
1年で帰国の予定が、ホームステイ先で紹介された相手とうっかり国際結婚。
現在は、編集者、ライター、字幕校正をなりわいとしている。
主なテーマは、本と本屋、台所と暮らし、歴史ドラマ、ドキュメンタリー映画。
http://tanakamiho.net/

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